如月家・藤原家の事情

涼「おはようございま〜す」
綾の母「あら、おはようございます」
涼「おじいさん、います?」
綾の母「ええ、お父さんなら居間でお茶を飲んでいますよ」
涼「あ、そうですか」
綾の母「お父さんに何か用?」
涼「いや、暇なので少し談話でも、と」
綾の母「あら、春香ちゃんも一緒なの」
涼「ええ…ほら、春香、挨拶」
春「おはようございます。おばあちゃん」
綾の母「おば………」
なんか、母さん、こめかみの辺りに筋が出たんですけど。
涼「それじゃそういうことで」
春香と一緒に行こうとした時、
ガシッ
と、母さんに捕まれた。
春香はそれに気付かず、そのまま門をくぐった。
俺が来ていないのに気付いたか、春香はこっちを振り向いた。
春「おとうさ〜ん、どうしたの?」
行こうとしたが、ガシッとつかんだ手は離そうとしなかった。
涼「あとで行くから、先に行っててくれ」
春「わかりました。それじゃおばあちゃん、またね」
ミシィッ
捕まった肩からいやな音がした。
母さん、ものすごい痛いんですけど。
春香が奥へと行った後、肩から手が離れた。
涼「なんです?」
綾の母「春香ちゃんに、私の事をお母さんって言ってくれるようにしつけ、してくれない?」
涼「もう年でしょ?」
綾の母「なんですって?」
母さん、俺の足を踏みつつ笑いながらそう言わないで。
綾の母「いいですね」
涼「えっと、あのそのあのその」
綾の母「この世の終わり、見たい?」
涼「わかりました」

春香「あっ、おとうさん、どうしたの?お顔青いですよ」
涼「あ、ああ…大丈夫」
春香に母さんの本性を教えないでおこう。

信「おお、涼か………おおっ、春香もか」
なんで春香だけ喜び方が違うんだ。
涼「おじいさん、おはようございます」
春「おはようございます。ひいおじいちゃん」
信「なに、おじいちゃんでいいわい」
…………………俺と春香を同じ扱いかい。
涼「とりあえず元気そうですね」
信「当たり前じゃ、春香の挙式まで生きるわい」
……………ゾンビになりますよ、あんた。
春「おとうさん、『きょしき』って何ですか?」
涼「結婚式の事だよ」
春「わ〜、おじいちゃん長生きしてくださいね」
信「うむ、もちろんじゃ」
春「大人になったら、おとうさんと結婚しますから」
く――――――――っっ!!!
かわい〜な〜、っっっとに春香は…。
信「すっかりこの男色に染まりおった………」
涼「何か言いました?」
信「いや、何も………にしても」
涼「なんです?」
信「春香の服装じゃ、なんでこう…………」
涼「ピンクハウスなのかって事ですか?」
信「そう、それじゃ」
涼「別にいいじゃないですか」
信「なぜそれを綾にさせん?」
涼「綾にしてほしいって言ったら断られました。というわけで春香に、と」
信「ぬう、これ以上春香を貴様色に染めはせん」
涼「ちっ、これだから年寄りは……」
春「あの、おじいちゃん」
信「うん、何かの?」
春「おトイレ、どこですか?」
信「トイレなら、まず廊」
涼「ああ、それなら廊下に出て、右の突き当たりだ」
春「右って………」
涼「お箸を持つ方だよ」
春「はい、わかりました」
ててて、と春香がトイレへと向かった。
信「貴様………」
涼「なんです」
信「よくも、数少ない春香との会話を妨げてくれたな…」
涼「冥土の土産としちゃ上等です」
信「貴様、今ここで死んでみるか」
涼「上等だボケジジイ、墓場に送ってやるよ」
チャキッ
おじいさんが刀を持った。
涼「あ、卑怯〜」
信「やかましいっ!」
刀を振り下ろす。
信「死ねえっ!」
涼「なんのっ!」
バシィィッ
真剣白刃取りが決まった。
涼「このクソジジイ、ほんとに殺そうとしやがるか」
信「当たり前じゃ、わしの座右の銘は有言実行じゃ」
涼「その言葉、辞世の句にしてやるよ」

綾「お母さん、おはようございます」
綾の母「あら、綾。おはよう」
綾「涼さんと春香、来てます?」
綾の母「涼君と春香ちゃんなら来ているわ」
綾「そうですか」
綾の母「多分、お父さんと話をしていると思うわ」
綾「わかりました」
綾の母「あ、そうそう、綾」
綾「なんですか?」
綾の母「春香ちゃんの事だけど」
綾「春香がどうかしましたか?」
綾の母「私の事、おばあちゃんって呼ぶのね、なんとかしてほしいけど……」
綾「お母さん、もう年」
綾の母「何か言った?」
綾「お母さん、痛いです」
母さんは綾の肩を思いっきりつかんでいた。
綾の母「いい、これはあなたの母親としての助言よ」
綾「自分勝手ね」
綾の母「ぶつわよ」
綾「それは嫌」
綾の母「というわけで、がんばってね」
綾「何をですか?」
綾の母「2人目」
綾「もう………」
綾の母「赤くならないの」
綾「だって…………」
その時、
死ねぇ―――っ!
させるかあっ!!
2人の男の声が轟く。
綾・綾の母「あ、あの声は……」
綾と綾の母はお互い顔を会わせ、うんとうなづき、急いだ。

涼「おらぁっ!」
バキンッ
刀をへし折った。
信「ぬうっ、腕を上げたな」
おじいさんは今度は槍を持った。
涼「ちっ、銃刀法違反で捕まれよ」
信「ふっ、警察なんぞに捕まりはせん」

そんな男2人の対決を見ている女が2人。
綾「……………どうします?お母さん」
綾の母「……まあ、いつもの事ですから」
綾「そうですね………」
綾の母「ここは春香ちゃんが来るまで待ちましょう」
綾「そうですね」

涼「ぜえ……ぜえ…ぜえ……」
信「ふーっ……ふーっ………ふーっ……」
お互いに刀を持っていた。
涼「こいつでケリつけてやる……」
信「ぬかせ若僧が……」
ジリジリと2人が間合いを詰める。
次の瞬間、
涼・信「死ねえーっっ!!」
その時、
春「あっ、おとうさんにおじいちゃん、何してるんですか?」
涼・信「あっ」
その途端、ピタリと止んだ。
春「……けんか……してるんですっ……か……っ…」
泣き声に変わり、嗚咽がもれる。
春「ぐすっ………ふぇ………おねがっ…い………やめてくだっ…ひっく…さいっ……っく……」
涼「いやいやいやいやいやいや、喧嘩なんかやっていないよ」
信「無論じゃ、誰がそんな事を」
正確には殺し合いだが。
春「ほん…っく……と…?」
涼「本当だよ」
信「心配するでない。春香の思い過ごしじゃ」
春「ぐすっ…………よか…っ…た」

そんな親バカ2人を見た女2人は、
綾・綾の母「………ほんとに男って………」
綾と綾の母は同時に溜息をついた。

後書き

ceres氏発案である5年後シリーズ第2弾です。
今回はほのぼのというよりギャグっぽいですね。
うーん、プロジェクト・ギアの作品であった『DANCING』の影響ですね。
当初はここまで狂わせる予定ではなかったのですが(笑)。
実はこの作品、2月15日に構想ができあがり、わずか2時間足らずで完成したという作者の中で新記録です(ちなみに今までの記録は4時間)。
ちなみに春香のセリフですが、涼の事を『おとうさん』とひらがなにしています。
まあ、4歳時ですから父なんて言葉はまだです。
そういう細かい設定を持たせるのは非常に好きです。
そういう細かい設定作るよりももっと面白い作品にしろって?無茶言いなさんな(泣)。
第3弾はすでにプロットができあがってます。
それでは第3弾にてお会いしましょう。