LOVE WILL…2

夕暮れになる頃だった。
綾の母「こんにちは、綾」
綾「あっ、お母さん、こんにちは」
綾の母「涼君は、お仕事?」
綾「ええ」
綾の母「そう…」
綾「………お母さん?」
綾の母「……この話、涼君には内緒ね」
綾「え?ええ…」
綾の母「……涼君……夫に似てるの」
綾「えっ?」
綾は驚いた。
綾の父親は綾が生まれる前に死に、綾にとって父親というのはどんな存在なのかわからなかった。
そして今、父親の事を初めて知った。
綾「そんなに、似てるの?」
綾の母「容姿とかは似てないけど…雰囲気は似てたわ。一生懸命で、純粋で……」
綾「……」
確かに、そういった部分は涼さんにもある。
綾の母「きっと、そういう所があったから、お父さんも結婚を許したと思うわ」
綾「えっ?」
綾の母「実はね、私と夫も今のあなた達と同じ頃に、同じ様な恋愛があって……やっぱりお父さんと話したわ」
綾「それで、お父さんも結婚を許してくれたの?」
綾の母はうなづいた。
その顔は暗かった。
綾の母「結婚して、妊娠して……でも…あの人は綾を見る前に死んでしまった……」
綾「お母さん……」
綾の母「死んだ時はつらかった…あれほど死にたいと思った事はなかった……でも」
綾「でも?」
綾の母「あの人が死んで、2週間くらいかな…夢に、出てきたの」
綾の母は天を仰いだ。
綾の母「夢の中で私は泣いていた。意味も無く泣いていた。泣き崩れている私に、あの人は手を差し伸べてくれた」
綾「………」
綾の母「私が手を握った瞬間に目が覚めた。その時、私は決心した。私はあの人の分まで生きようって」
綾「…」
綾は泣いていた。
もらい泣きである。
綾の母「こら、泣かないの」
綾の母は指ですうっと綾の涙を拭った。
きっと、涼君は綾のこんな優しさに惚れたのだろう。
綾「でも、どうして今、お父さんの事を?」
綾の母「春香が生まれたから、かな?」
綾「え?」
綾の母「春香がもし、私や綾と同じ恋愛をしたら、おとぎ話みたいに伝えたいの」
綾「……どんな風にですか?」
綾の母「私の彼はこんなにも愛していたって」
綾「ノロケですよ」
綾の母「ふふ、そうね」
綾の母はぽんと肩を叩いて、
綾の母「涼君をこれからも愛してね」
綾「はい…」
綾はにこりと微笑んだ。
あの人は私のどこに惚れたのだろう?
きっと、涼君と同じようにあの人は全てを愛していたのだろう。
そういえば、少し気になったことがある。
綾の母「ねえ、そういえば春香って名前、どっちが決めたの?」
綾「涼さんが決めました」
綾の母「涼君が……でもどうして、春香って名前を?」
綾「涼さんが言うには、春のような暖かさの香りを持った素敵な女性、だそうです」
綾の母「……涼君はどうして春にしたのかしら?」
綾「ふふ…、私と涼さんが出会ったのが春だからですよ」
綾の母「なるほどね…涼君らしいわ」
その時、後ろから声がした。
涼「ただいまー」
綾「あっ、涼さん。おかえりなさい」
綾の母「おかえりなさい。涼君」
涼「あれ、母さんもいたんですか」
綾の母「ええ、少し暇でしたから」
涼「そうですか」
綾の母「それじゃ、私はそろそろ夕飯の仕度をするから」
綾「はい」
綾の母は帰ろうとし、涼に近付いた。
綾の母「綾を、大切にね」
涼「え?あ、はい」
綾の母は涼と入れ違いに帰っていった。
涼は頭をかきながら、
涼「大切に、か……」
綾「どうかしましたか?」
涼「ん……母さんが綾を大切にしろって………いきなりなんだろ」
綾「ふふ……」
涼「………?」
夕暮れが、少しずつ夜へと変わっていく。
そんな日のある事だった。

後書き

5年後シリーズ第五弾となりました。
今回は綾母が主役というちょっと変わったものになりました。
今回で初めて綾母の夫がいないという設定がありましたが、これはすでにずっと前から考えていた設定です。
綾の家族はおじいさんに綾母、そして綾の3人家族なのです。
タイトルが2になっているのはこの『LOVE WILL…』の1が母子の会話でしたので、今回も一世代ずれたものでしたので2にしました。
3、4と続く可能性があります。
もし3があるなら……いや、多分3はありますね。3でも親子の会話がテーマですので今度は涼と綾母、もしくは涼と春香、はたまたおじいさんと綾母、なんてのもあるかもしれません。
今回初めて春香という名前の由来がありましたが、『4U』であったように由来は後付けです。
なんとなく、なんて理由でつけると綾が怒りそうですから(笑)。
ちょっと今回……書いてて涙が出ました。
初めてですね、自分で書いた小説で泣いたの。
それでは次回にて……なんかこの次回にてってのクセになってるな。
以前映画のロードショーの『さよなら×3』みたいなシロモンになってます。
まあ、それはそれでいいかもしれませんが。
それでは次回にて。