プロジェクトギアから3年前――――――
1台の黒いST205がとある道路を疾走していた。

その道路はあまりにも長く、無限回廊のようだった。

ここは東京、首都高――――――
多くの走り屋が集う、狂気という名のメリーゴーランド。

26時37分

台場線、レインボーブリッジ上で、銀のA80が疾走する。
A80のドライバーの男は舌打ちした。
なぜ振りきれない。
スピードメーターをちらりと見る。
すでに時速250km。
これ以上は出せない。
これがこのクルマの限界領域だった。
その横をすっと黒のST205が抜いた。
歩いている人の横を自転車で通りぬけたような感じだった。
横を見るとステッカーがあった。
黒いボディに黄色の雷光のステッカー。
まさか、こいつがあの『黒き雷光』!?
ST205の速度は軽く280を超えている。
ST205でここまで出るのか?
そして、ST205はA80のドライバーの目の前から姿を消すかのように加速していった。

ST205は首都高を降りた。
近くのコンビニにクルマを止める。
ST205から男が出てくる。
ST205のドライバー、稲垣芹禾は溜息をついた。
ここには俺より速い奴はいなかった。
となると、今度は湾岸線にでも繰り出そうか。
そう思っていた時、愛車であるST205の隣に、クルマが駐車してきた。
すでに深夜のため、駐車場はガラガラにも関わらずだ。
車種は、白のR33だ。
見覚えのあるクルマだった。
R33から男が降りた。
芹「零」
零と呼ばれた男、井ノ原 零(いのはら れい)は芹禾の方を向いた。
零「おお、芹禾か」
芹「そっちはどうだ?」
零「んー、GC−8がいたな、もちろん勝ったよ」
芹「そうか……」
半年前、芹禾はフレイムヴィジットのメンバーになった。
そのフレイムヴィジットの中に、零はいた。
最初は反発していたが、バトルを何度も交わすことによってお互いに理解しあえた。
零は性格が人懐っこいせいか、チームの全員に好かれている。
無論、クルマのテクニックもチーム内では優秀な方だ。
零「なんだよ。強い敵がいないからすねてんのか?」
芹禾はどきっとした。
頭の中を覗き見されたような気分だった。
芹「よくわかったな」
零「なあに、最近催眠暗示に興味あってな」
芹「ふうん……」
芹禾は自分が関心のあるもの以外にはなんの興味もなかった。
無論、零もそれは見抜いていた。
零「で、そっちはどうだい?」
芹「ああ、A80がいた。結果は言わなくてもいいな」
零「ああ、ボロ負けってことにしてやるよ」
芹「おいおい」
芹禾は苦笑いした。
ふと、耳にクルマの音が聞こえた。
聞き覚えのある音だ。
その音の持ち主が視界に現れた。
紅のZ32。
クルマのリアの部分にフレイムヴィジットのステッカーがあった。
芹禾、零と同じチームのメンバーだった。
ドライバーがクルマから降りた。
女性だった。
外見から察するに、かなりのキツめの性格であるのが一目瞭然だった。
彼女の外見はクルマの色に合わせたように赤をベースにした服装だった。
赤のキャミソールに、ピンクに近い赤のパンツ。
一定の色に統一している人は、その色のイメージになろうとしている。
たとえば黒の場合は高級感のイメージが強いため、貧弱感を出したくないため、口調もそのようにしている。
彼女、倉木 潤子(くらき じゅんこ)もそのタイプの女性だった。
潤「どうやら、勝ったのはこの3人みたいね」
零「というと、他のメンバーは苦戦中か?」
潤「そういうこと。で、バトルした相手の車種は?」
芹「A80」
潤「まあまあの相手ね。で、零ちゃんは?」
零「GC−8」
潤「2人とも結構やるじゃない」
零「そりゃ、フレイムヴィジットにいるんだ。勝たなければ意味がないさ」

フレイムヴィジット。
ここのチームは首都高の中ではトップクラスを誇る。
このチームに入るにはチームのメンバーに勝つ事であるが、それは至難の技と言える。
そしてメンバーに勝ち、チームに加入できるが、ここでチーム内のルールがある。
『全戦無敗』
つまり、負けては駄目だということだ。
もし負けた場合は即解雇という厳しいルールがある。
ただ、メンバーに勝つ事自体がかなりの困難になるので参加希望者は数多くいるが希望が叶ったのはごくわずか。
そして、この試験もバトルと同様にみなしている。
よって、メンバーが負けた場合、入れ替えが行われる。
芹禾が挑んだ相手もすでに解雇済みである。

少し前までかなりの入れ替えがあったが、解雇にならなかったのはリーダーである潤子と零、そして芹禾以外に2、3名ぐらいだった。
そして残りの2、3名も今日、苦戦中である。
もしかすると最終的に残るのはこの駐車場にいる3人だけなのかもしれない。
潤「それじゃ、私は帰るわ」
芹「そうか、気をつけてな」
潤「あなたたちもね」
潤子はクルマに乗り込み、駐車場を出ていった。
そして2人となった。
芹「きつい一言だな」
零「なあに、ここではアブソリュートが鉄則だからな」
芹「さて……どうする?」
零「やることもないし、俺も帰るよ」
芹「そうか…」
零「なあ、今度、勝負しないか?」
芹「場所は?」
零「湾岸線の上り、先に走っているから」
芹「わかった」
零「それじゃ、待ってるよ」
芹「ああ」
零はクルマに乗り込み、心地よい音を出しながら駐車場を出た。
そして駐車場には芹禾1人となった。

後書き

ギア・エボでは峠でしたが、今回のゼロは首都高が舞台となっています。
首都高走ったことのない人間が書いていいんだろうか(笑)。
峠は何度かあるのですが。
さて、舞台はギアの3年前となっています。
ですからAP1、MR−Sといった2000年モデルは使えない状況でした。
最初、A80(トヨタのスープラ)ではなくAP1(ホンダのS2000)を書いてしまい、あやうくとんでもない誤植になりそうでした。
今回は3-話構成にしようと思います。
ですから残りは2話となります。
ちなみに、首都高の走り屋の事をルーレット族と呼ばれるそうです(最近知った)。
ですから、芹禾は元ルーレット族となります。
暴走族とは一味違うタイプということです。
それでは次回にて。