潤「なんですって?」
芹「もうここには意味がなくなった。首都高から消える」
潤「それは許さないわ」
芹「何故だ」
潤「そ、それはチームとしての戦力になるからよ」
芹「…潤子、俺は君の腕ではない」
潤「………!」
芹「零が死んだ今、俺にとって首都高は何の意味もなさなくなった」
潤「これからどうするの?」
芹「峠へ行く」
潤「峠へ?首都高とは違うのよ」
芹「わかっている。首都高とはまったく違う走りを極めるためだ」
潤「首都高で速ければ峠も速いという定説はないのよ」
芹「それもわかっている」
潤「……どうしても行くの?」
潤子の口調が変わった。
先程の気高さが消えたような気がする。
芹「このフレイムヴィジットに入れてくれたことに感謝する。でも」
芹禾はST205のリアに貼られたフレイムヴィジットのステッカーをはがした。
芹「俺は峠のアブソリュートになる」
潤「…勝手よ……」
泣き声に近い声だった。
潤「どうして、私が好きな人がこうも消えるのよっ……!」
ぼろぼろと涙が流れる。
止めたくても止まらなかった。
潤「ひっ……ぐすっ……っく……」
芹禾はようやく彼女の素顔を見た気がした。
今までの高飛車な彼女は作り物で、今ここにある真実が本当の彼女なのだ。
芹禾にはそれがいとおしく見えた。
芹禾は潤子に近付いた。
潤子は芹禾を見た。
涙はまだ止まらない。
芹禾は優しく抱擁した。
拒絶はない。
潤「……お願い、キスして」
辛い記憶を消してほしい。
そんな風に聞こえた。
芹禾は潤子の額にそっと口づけをする。
唇にはしなかった。
俺には彼女を好きになる資格はない。
きっと彼女を幸せにする人が…。
唇を離し、クルマの方を向いた。
潤子の顔は見なかった。
嗚咽はなかった。
どうやら大丈夫のようだ。
彼女を幸せにしてくれる男性がいる事を祈ろう。
クルマに乗り込み、キーを差し込み、捻る。
そして、そのままクルマを走らせた。
その後、黒い雷光の存在が首都高で語られることはなく、それと同時にフレイムヴィジットは解散となった。
そして1年が過ぎた。
芹禾は首都高を離れ、峠が近くにある所へ引っ越した。
そこを拠点として遠征をしていく予定になっている。
ただ、チームには加入してはなく、個人としてだ。
芹禾は地元の峠を攻めていた。
左コーナー。
ブレーキを踏み、2速へ。
リアをそのまま流し、4WDならではの4輪ドリフトで流す。
ちらりと左を見る。
壁がかなり近くに見えた。
だいたい7、8センチといったところか。
まだまだか。
インをデッドに攻めなければタイムの短縮にはならない。
まだアブソリュートの域ではない。
ふと、自分の言葉に苦笑した。
うつったかな、あいつの口癖。
そして次のコーナーに備えるため、アウトへ。
ガードレールが眼前に迫る。
ハンドルを微妙に動かし、ラインを修正する。
ガードレールスレスレでクリア。
3速に入れ、一気に加速する。
ここに来て一年が過ぎた。
クルマは首都高時代よりもデチューンした。
首都高では馬力がモノを言ったが、ここでは違う。
馬力以外のモノを必要とする。
それがなんなのかはまだわからない。
もし、それがわかった時、峠のアブソリュートになれるだろう。
走らせていると、後ろからライトが迫ってきた。
白いクルマだ。
車種は………S13。
パッシングをしてきた。
バトルの合図か。
アクセルをふかす。
勝負は次のコーナーを抜けてからだ。
男「速いな、あんた」
芹「そんなことはないさ。まだここに来て1年だ」
男「1年でこんなに速いのか、まいったな」
芹「君はこの峠の地元の人かい?」
男「ああ、工藤 潤。地元って言っても一匹狼だけどな」
芹「そうなのか……」
潤「ところで、あんたはチームにでも入ってるのか?」
芹「俺は……」
零の事を思い出した。
零と話した事。
零とバトルした事。
零が死んだ事。
………………零。
芹「稲垣 芹禾。アブソリュートのリーダーだ」
今回でクルマ編はひとまず完結となります。
今作ではギアの3年前で舞台が首都高と、作者にとって未知の領域と言えます。
首都高の雰囲気が出ればいいなと思っていましたが、どうやら無理っぽいでした。
まだまだ修行が足りません。
いくつか未熟な面もあり、納得のいかない部分もありますが、次回作にてその未熟な部分を補えるよう頑張りたいと思います。
それでは別の新たなるプロジェクトにてお会いしましょう。
参考作品
元気 |
『首都高バトルZERO』 |
avex |
globe |
『euro gloval』 |
move |
『Operation Overload 7』 |
KONAMI |
村井 聖夜 |
『Pink Rose』 |
そして、このプロジェクト・ギア、プロジェクト・エボリューション、プロジェクト・ゼロを作成するきっかけとなった元気の首都高バトル2、首都高バトルZERO、タイトーのバトルギア2に、多謝。