東雲由紀子

ポストの中を見てみると、封筒が入っていた。
自分の住所と名前が書かれていたが、相手の名前はどこにも書かれていない。
『誰からかな』
封筒を開け、中の便箋を見る。

郷田琴美(さとだ ことみ)様

お久しぶりです。
高校の時に同じクラスメイトだった大石穂香(おおいし ほのか)です。
実は高校時代のクラスメイト達と同窓会を行いたいと思い、手紙を送りました。
よろしければ下記の時間に私達が高校3年の時の教室に来てください。

大石穂香という名前を見て思い出した。
あのちょっとおとなしい女の子。
……同窓会はどちらかというと学校側もしくは教師の人が行うと思うけど…。
『まあいいか、久しぶりに他の子にも会いたいし』

指定された時間にかつて自分がいた高校の前に来た。
卒業した時と変わらない風景だった。
あれから5年しか経っていないけど、ひどく懐かしく感じる。
校門は開いており、そこから校内に入る。
人の気配がしない。
同窓会なのに人の気配がしないのはどういう事なのだろう。
すでに全員教室にいるのだろう。
校舎のドアも開いていた。
高校3年の頃の教室の場所は3階だった。
すぐそばにある階段で3階へと向かった。

3階に着く。
…やはり人の気配がしない。
どういう事なのだろうか。
時間は手紙に書かれた通り。
……誰も来ていないのだろうか。
そう思ったが、教室に近づくと声がした。
誰かがいた。
そう確信した時、ほっとした。
誰もいないと不安になってしまう。
教室のドアを開けると、やはりいた。
教室にいる人は自分を除いて3人。
クラスメイトだったから見覚えがある。
一番左の女性は肩をくすぐる程度の長さをしていた。
確か彼女は東雲由紀子(しののめ ゆきこ)。
高校の頃と同じくらいの髪の長さだ。
おそらくこの長さが一番気に入っているのだろう。
真ん中の女性は茶髪で肩より長めに伸ばしていた。
恐らくクラスの中で一番ガラの悪かった忍足桐江(おしたり きりえ)だろう。
当時は制服も雑に着ていたが、今は女性らしい服装をしている。
この5年で一番変わったのかもしれない。
右の女性は中島璃音(なかじま りおん)。
クラス一のお金持ちだったのを覚えている。
というのも登校、下校とも高級車で迎走していたからだ。
彼女も東雲由紀子と同様にあまり変わっていない。
自分で4人目。
おかしい。
もうそろそろ時間のはず。
4人しか来ていないのはどういう事なのだろう。
『郷田さんで最後かしら』
東雲由紀子が口を開く。
この変な状況に対して落ちついている。
『…だと思うよ。ここへ来る前には誰にも会わなかったから』
東雲由紀子の推測に肯定するように答えた。
『で、肝心の大石はどこよ?』
忍足桐江が不満そうに言う。
4人しか来ていないのでは面白くないのだろう。
『そうね、当事者なら挨拶ぐらいしてもおかしくないのに』
中島璃音もこの状況に疑問を持っていた。
ふと、黒板の上に設置されている大型のモニターが点灯した。
4人同時にモニターを見た。
モニターに映っているのは1人の女性。
『みなさん、こんにちは!』
ものすごく明るい声。
もしかして、この女性が大石穂香なのだろうか。
はっきり言って別人だ。
5年という歳月はこんなにも人を変えるのか。
『今日は同窓会に来てくれてありがとう!それじゃ、この同窓会の目的を言うね』
目的?
かつての同級生と思い出話を語り合うのが目的ではなかった。
『それはね、ズバリ、鬼ごっこ!』
目的を聞いて全員が静まり返る。
それだけのために、みんなを呼んだというのか。
『ルールは簡単、私が鬼をやるから、一人ずつ教室から出て逃げてね。捕まっちゃったらその人は終わりだからね。あと特別ルールで私に捕まりそうになってもある事をすれば学校から出られるよ』
すると、教室のドアが自動的に開いた。
大石穂香がリモコンで動くように改造したのだろう。
『それじゃ、一人目の人は教室から出てね。それじゃっ、スタートッ!』
モニターの電源が切れ、静寂が戻った。
『………馬鹿馬鹿しいわ』
東雲由紀子が呟き、教室から出ていく。
そして、ドアが閉まった。

一体何を考えているのか。
時間の無駄以外の何物でもない。
帰ろう。
玄関へ着くと、今回の同窓会…いや、無駄なイベントの発案者の大石穂香がいた。
『あっ、東雲さん見っけ!』
あっちは鬼ごっこをやっているのだろう。
けれど、こっちはその気はさらさらない。
『どいてもらえる?悪いけど、あなたの馬鹿なイベントに付き合ってられないから』
大石穂香が左腕をつかむ。
『東雲さん捕まえた!』
こちらの話を聞いていない。
『大石さん、悪いけど帰るわ』
『えー、やっと捕まえたのに』
大石穂香が何かを取り出す。
それを見て身体が危険信号を発した。
『あなた、それは一体…』
何かが脇腹に当たる。
直後、痛みとは違う強い刺激が全身を襲った。
身体の平衡感覚が失っていく。
『…東雲さん、捕まえた』
大石穂香の声が聞こえた。
そして、意識が途切れた。

東雲由紀子が出てから10分ぐらい経過したのだろうか。
忍足桐江が我慢できずにドアを開けようとしたが、開かなかった。
おそらく電子ロックのようなものがかかっているのだろう。
東雲由紀子は今頃校舎の外にでも出ただろう。
そう思っていると、モニターの電源が付いた。
『みなさーん、一人目の東雲さんが捕まりました〜』
大石穂香がにっこりと笑って報告をする。
捕まったのか。
けれど、鬼ごっこなのだから東雲由紀子はこれで帰れるのだろう。
しかし、大石穂香は自分の思っている事とは違う事を口にした。
『それじゃ、東雲さんの公開処刑を始めるね』
公開処刑。
何をするのだろうか。
ふと、大石穂香の後ろに何かが見える。
大きい何かにシートが被せてある。
『それじゃ、今回の処刑方法はこれだよっ』
大石穂香がシートを取ると、そこには東雲由紀子が椅子に座っていた。
しかし、東雲由紀子はロープで縛りつけられ、椅子に座られていた形になっている。
『大石さん!これはどういう事よ!』
『えー、だって東雲さんったら高校の時に私の髪を無理矢理切ったじゃない、私イヤって言ったのに〜』
『そっ、そんな事をまだ覚えているの!?』
『一回だけじゃなくて、何回じゃない。もー、あの後お母さんに自分で切ったって言い訳するの大変だったんだから』
大石穂香が大石の首元に何かの機械を置く。
『東雲さん、これは何かな〜?』
『何って……』
大石穂香がスイッチを入れる。
その機械は激しい音と共に回転を始めた。
『うん、チェーンソーだよ。最近のって自動的に動くんだね。私体力無いからこういう機能って便利だよね』
東雲由紀子の顔が青ざめる。
まさか。
そのまさかが本当であってほしくない。
『じょ、冗談よね?それだけで私を…』
『それじゃ、東雲さんの首を狩っちゃうね』
大石穂香がスイッチを入れた。
チェーンソーは再び激しい回転を始めた。
『とっ、止めて!やめなさいよ!』
『えー、止めちゃったら処刑にならないよ〜』
チェーンソーは東雲由紀子の首元へと近づく。
激しく回転する刃は東雲の由紀子の髪を切った。
東雲由紀子が思っていた『まさか』は、現実となった。
『いやああぁぁっ!誰か!誰か助けてえっ!』
東雲由紀子が泣き叫ぶ。
そして、チェーンソーは東雲由紀子の首に接触した。
『あアぁ――ッ!あ゛―っ!あがぁぁぁ―っ!!』
ぷしゅっと切れた首から血が噴き出す。
『わあっ、すごーい、噴水みたいに出るね』
狂った光景を遊園地のアトラクションのようにはしゃぐ大石穂香。
『あ…あ…ア…ア……ァ…………ぁ…………………』
チェーンソーの刃が首の半分を超えると、東雲由紀子の声が止まった。
しかし、チェーンソーは止まらない。
肉をぶちぶちと千切るような音が響く。
やがて、ごろんという音がした。
『はいっ、終了っ!』
大石穂香が画面外へと動き、モニターには首の無い東雲由紀子だけが映る。
『よいしょっと』
そして、次に映ったのは、東雲由紀子の生首。
眼は白目を剥き、そこから大量の涙、鼻からは鼻水らしき体液、口からは血を吐きだしていた。
『わー。生首だけになっても東雲さん可愛いね』
大石穂香はにっこりと微笑み、
『はーい、それじゃ次の人は東雲さんみたいにならないでねー』