大石穂香の言葉で理解できた。
呼んだのは自分を含めて4人だけ。
殺すために呼んだ。
教室のドアが開いた。
『郷田さん、一緒に逃げるわよ!』
中島璃音が声をかける。
そうだ、殺されるというのにルールを守る必要はない。
それならば一緒に逃げれば捕まる確率はぐっと減る。
中島璃音に続こうと走り出す。
が、異常なものを見続けたためか、足がうまく機能しない。
足を滑らし、床に倒れる。
すでに教室から出ている中島璃音が叫ぶ。
『郷田さん!』
自分達の理想を崩すかのように、教室のドアが閉まった。
こんな時に転ぶなんて。
これだから平民は嫌だ。
いざという時に盾にすれば良かったが、計算が狂った。
なんとしてでもここから脱出しなければ。
とにかく大石穂香に会わなければ捕まる事はない。
それならば、降りる方法は階段でなくともいい。
窓から飛び降りればいい。
普通に飛び降りるのは危険だが、下に木があればクッションの代わりにもなる。
せっかくの服が台無しになるのは嫌だが、そうはいってられない。
脱出できなければ報復のしようがない。
2階まで降りたが、大石穂香の姿は無い。
チャンスだ。
記憶を頼りに大きな木が傍にある教室に入る。
あとは窓を開ければ脱出できる。
窓が細工されて開かない状態でない事を祈るばかりだ。
窓に手をかける。
開く。
助かった。
あとは木に乗るように飛び降りればいい。
『せえ…のっ』
窓から飛び降りる。
木に落ちる。
そう思った。
しかし、木は自分の目の前にいる。
落下が…止まった?
何かが自分の身体にまとわりついている。
透明な……網。
まさか、ここを飛び降りる事を予想していたのか。
『あー、中島さん見つけたー』
声がした。
一番、会ってはいけない声。
恐る恐る声の方を向いた。
会ってはいけない人物の顔は、笑っていた。
『中島さん、捕まえた』
教室の隅で座りこんでいた。
もし中島璃音が捕まったら私はどうなってしまうか?
私は大石穂香には何もしていない。
では、何故私をこの殺人ゲームに呼んだのか。
わからない。
ふと、モニターの電源が点いている事に気づいた。
まさか…。
思わず立ち上がった。
『みなさーん…あ、もう一人だけだから郷田さーん、3人目の中島璃音さんが捕まりました~』
眩暈がしてきた。
まさか、中島璃音も捕まるなんて。
『それじゃ、早速中島さんの処刑を始めるね』
画面はズームアウトされ、大石穂香の周りに何があるのかわかってきた。
金属でできた大型の容器。
人間がだいたい入りそうなほどの大きさ。
その容器の真上には、檻に閉じ込められた中島璃音がいた。
その檻は高さが足りず、中島璃音をうつ伏せにさせて無理矢理閉じこめていた。
『大石さん、こんな馬鹿な事はやめて、下ろしなさい!』
『えー、そんな事したら中島さん逃げて私に復讐しちゃうんでしょ~』
『そ、そんな事はしないわ。わ、私は他の2人とは違うもの』
本心を読まれ、発言がしどろもどろになっている。
『えー、中島さんったらお嬢様なのに私をトイレの便器に突っ込ませて水を飲ませたよね?』
『あ…あれは…』
『んもー、あの後お腹は壊すし身体の具合がひどくなって大変だったんだからね』
大石穂香が咳払いをする。
『それじゃ、中島さんの処刑方法は、丸揚げの刑にしまーす!』
『ま…る……』
中島璃音の顔が一気に青くなる。
『油の温度の具合を確かめるから試しにピチピチのお魚を入れてみるね』
足元にあったバケツから魚を取る。
大石穂香が持ち上げた途端、バタバタと暴れだす。
『うわー、文字通りピチピチだね。それじゃ…えいっ』
魚が油の入った容器に入った瞬間、油がかなりの高さになるほど跳ね上がる。
水分が大量に含まれているせいもあるが、魚が生きているから、という理由の方が正しいのだろう。
油は次第に跳ねなくなり、揚げている音だけが響く。
『うん、温度も十分だね。それじゃ早速処刑開始っ』
大石穂香がリモコンを取り出し、スイッチを入れた。
そして、大きい音と共に中島璃音を閉じ込めている檻が下がり始めた。
『やめて!やめてぇ!お金ならいくらでも払うから!』
『…残念だけど、お金なんていらないの、もう…使えなくなっちゃうから』
大石穂香のトーンが変わった。
使えないとはどういう意味なのか。
檻の金属の部分が油に入る。
『いやっ!いやあ!死にたくない!しにたくないっ!』
やがて、中島璃音の身体が油に触れた。
『ああアアガアアッッ!ぎゃああアあアあ!』
そして、檻は全て油の中に入った。
中島璃音の声はなかった。
代わりに、揚げる音が盛大に鳴っていた。
大石穂香はこちらを向く。
その顔は笑顔ではなかった。
『…郷田さん、最後は、あなただよ』