涼「…ん……」
目が覚める。
ゆっくりと目を開けると、朝日が目に入る。
もうすっかり朝だ。
むくりと起きて、ぐっと伸びをする。
涼「んー…朝か」
隣で寝ていると思われる綾の方を見た。
いない。
その代わりにいたのが子猫だった。
涼「…あぁ?」
白の子猫。
…どういうことだろう。
一晩で人は子猫に変身できるような魔法は取得していないはず。
ふと、枕元を見た。
指輪。
あの幼くなる指輪だ。
…まだ確かめていない、『親指』だ。
なるほど…子は子でも子猫か。
最後の謎が解けてスッキリしたが、直後に悩みが出来た。
…猫の飼い方だ。
いかんせん人ではないのでいつもの元に戻す方法が出来ない。
うーん……。
……まあいいや、戻り方はわかってるんだ。
のんびり待つ事にしよう。
で、朝食。
綾が子猫になったわけで準備は俺がする事に。
……はっ。
綾の朝食、どうすればいい!?
…いかん!猫缶食わせるわけにはいかん!
どうすればいい!?俺!??
………あ、子猫だから牛乳とかでいいのか。
…綾が子猫になった影響で俺までパニクり気味。
えーと、人肌ぐらいに暖めて、と…。
浅めのボウル皿に入れて、とんと綾の前に置く。
涼「はい」
……。
しかし、綾は牛乳を飲もうとしない。
涼「あれ、食べないのか?」
正確には飲むの方が正しいが。
んー……………んっ?
皿に注がれた牛乳を手ですくい、その手を綾の口元に近づける。
すると、綾は喜んでそれをぺろぺろと舐める。
てっ…てのひらじゃないとダメってか…っっっ!!
だらだらと流れる鼻血を手で抑えつつ、皿ならぬ手皿で綾の食事を促した。
…あーもう、食べちゃいたいよコンニャロウ。
いやすでに食べちゃったのだが。
食事が終わり、居間にて座ってテレビを見ている。
すると、ちょこちょこと綾が近づいてくる。
あぐらをかいていたその中心に入り、その場で丸くなる。
…おかしいな、本当に綾か?
ここまで積極的なのも珍しい。
……あ、本能か。
基本的に動物は本能で生きているから、人間と違って理性がないので欲望に忠実な動きをするわけか。
それなら先程のてのひらぺろぺろも納得がいく…!
テレビを見終え、ふと綾の方を見る。
…運動もさせないとなあ。
喰っちゃ寝は健康的ではない。
とりあえず猫じゃらしのような物を作るか。
割り箸に紐をつけて、さらにその紐の先端にピラピラとした紙を束ねたものをつける。
これで簡易猫じゃらしの完成。
綾の前にそれを取り出し、ひらひらと動かす。
ピラピラ部分を触ろうとする。
が、素早く回避。
再びピラピラを追う綾。
さらに回避。
追う。
回避。
ぼーん…。
時計から音色が鳴った。
時計の方を向くと、時計の針は長針と短針が重なって真上に向いていた。
げっ、もう昼!?
夢中になりすぎるのも考えモノだな…。
鼻血を抑えつつ、綾の食事(朝食と同じ牛乳)を済ませ、午後。
…とりあえず運動もしたし、あとは夕食か。
それまで何をするかな…。
綾の方を向く。
寝ていた。
猫は寝子。
一日の半分は寝ているらしい。
綾が寝ているのを見て、それにつられて欠伸をした。
…俺も昼寝するかな。
………ん。
あー…夕焼けが綺麗だな…。
…ん、夕焼け?
がばっと起き上がる。
うわ、寝すぎたな。
…俺の方も喰っちゃ寝だな。
三度目の鼻血をこらえつつ、綾の夕食を済ます。
さて、やる事もないし、とっとと寝ようかな。
…さっきまで昼寝をしていた人のセリフではないと思うが。
ベッドに潜り込む。
そして、綾もベッドの上に飛び乗り、枕の上で丸くなる。
そのまま目をつぶった。
多分枕の上がベストポジションなんだろう。
…さて、俺も寝るとしますか。
涼「んー…」
朝か。
目を開けると、そこには綾が寝ていた。
ちゃんと人の姿で。
……ああ、戻ったか。
念のため自分の頬をつねる。
…うん、痛い。
夢ではない。
さて、綾も無事に戻ったし、めでたしめでたしと。
綾「ん…」
綾も目が覚めたようだ。
涼「おはよう、綾」
綾「ん…おはようございますにゃ」
涼「……あぁ?」
…にゃ?
綾「…どうかしましたにゃ?」
…副作用。
親指の効果:子猫になる。ただし戻った時に副作用として語尾に『にゃ』がつく。
涼「げふっ!」
吐血。
綾「りょっ、涼さん!?大丈夫ですにゃ!?」
お、親指は…強烈だ…。