※走馬灯の続きです。お読みでない方は先に読んでください。
綾「ちょっと見てもいいですか?」
アルバムに興味を持ったらしい。
涼「うん、いいよ」
ひょいとアルバムを渡す。
綾「………」
にこりと微笑む時もあれば、赤くなる時もある。
…まあ赤くなったのは多分綾の写真(盗撮とも言う)なんだろうけども。
そして、ある写真を見た瞬間、赤い顔がさらに赤くなる。
綾「りょ、涼さん…これ…撮ってたんですか…?」
綾がとある写真を指差しながら見せる。
その写真は、机の上を撮っている。
机の上には何も無かった。
ただ、大きな水滴がひとつ。
話は大学卒業の一日前にさかのぼる。
場所は大学の講堂。
パシャッ
カメラのシャッター音が鳴る。
涼「ふう…こんなもんかな」
綾「結構撮りましたね」
2人は記念に大学のあちこちで写真撮影をしていた。
大学はほとんど誰もおらず、ある意味貸切の状態。
涼「ちょっと座ろうか」
綾「はい」
椅子に座り、黒板を眺める。
涼「卒業、か…」
綾「4年間は…長かったけど、あっという間でしたね」
涼「…全部が全部楽しかったというわけじゃないけど、きっといい思い出になるんだな…」
綾「…明日は…この大学ともさよならですね」
涼「……この大学に来て良かったよ。もしここじゃなかったら平凡でつまらない日々だったかもしれない」
綾「…私もです。あなたと一緒で良かったと…心から思ってます」
涼「…それは俺もだよ。綾さん」
すう、と綾の髪を触る。
なめらかで、指の間をさらりと通る。
綾の唇が近い。
何の躊躇いも無く、キスをした。
…そういえばキスをしたのはいつ以来だったっけ。
最後にキスのはかなり前。
この大学にいる頃にするべきことは全てした。
そのせいか、ぷっつりとしなくなってしまった。
大学を卒業すればすぐ結婚して一緒になるわけだし、焦らなくてもいいかという状況が生まれ、このような状態に。
久々のキスは心を激しくさせる。
綾「ん…はぁ…」
それは綾も同じだった。
綾「ひと……きちゃいますよ…」
誰かがこの講堂に入ってる可能性がある。
涼「大丈夫、誰もこないよ」
先程の写真撮影で周辺を歩いたため、人はほとんどいなかったというのもあるが、それはこじつけに過ぎない。
根拠の無い言葉だった。
綾「…涼さん…」
だが、彼女はその言葉を信じた。
再びキスをする。
綾「んっ…んんっ…あむ…っ…は…ぁ…」
今度のキスは激しかった。
綾の口内に舌が入り込む。
綾「んっ…」
びくんっと身体が反応する。
涼の舌に合わせるように、舌が絡み合う。
ざらっとした感覚が脳に刺激を与える。
綾「んんっ…」
唇を離す。
涼「ねえ、机…乗って」
綾「…こ…こうです…か?」
椅子から立ち上がり、机に座る。
だが、涼の要求は違った。
涼「ううん、こう」
綾の右膝を持ち、ぐいっと足を開かせる。
机の上にまたがって乗る。
これが涼の要求だった。
綾「あぅ…すごく…はずかしいです…」
机に乗るという時点で綾にとってとんでもない事だし、股を開いて乗るのは想像もつかないレベルだ。
スカートを穿いているが、うまい具合に大事な部分は見えない。
ただ、本人はわからないかもしれないが、淫靡だ。
再びキスをする。
綾「ん…はぁ…んん…っ…ぅっ…んっ…」
綾の唇そのものをぺろっと舐める。
少し甘く感じる。
リップクリームでも塗っているのだろう。
涼「綾さんの口…すご……甘くて…」
その甘さは更に興奮を誘う。
綾「んんっ…ふゃ……ん…ゃ……」
綾の声が甘くなっているのがわかる。
…この先はどうするべきか、迷う。
綾が嫌がっているなら、やめれるのだが、
綾「んんっ…はぁっ…はあ…」
拒絶は一切ナシ。
だから余計に困る。
右手が何度も宙を掴む。
胸を触ってしまったらもう止められない。
………。
手を胸元に伸ばそうとした時。
〜♪
校内のチャイムが鳴る。
その音にピタッと手が止まる。
キスを続けていた唇も離れる。
綾「はぁ…は…ぁっ…はーっ…」
夢中でキスを続けていたためか、綾の口元から涎がとろりと垂れ、顎に溜まり続けるがやがて落ち、ぽとっと机の上に落ちる。
涼「………」
淫靡な光景に見とれた。
無意識のうちにカメラを取り出し、ざっと合わせる。
綾の身体が写らないように、机だけに。
ファインダーをのぞいていないが、何度もこのカメラで撮っているのでなんとなくどんな景色かはわかる。
シャッターを切った。
綾はまだキスの刺激に酔っているのか、カメラにまったく気づいていなかった。
綾「もう…涼さんたら…」
綾はぷんすかの状態。
まさか大学内であんな痴態をするとは。
涼「うう…申し訳ないです」
一方、仕掛けた男はバツを悪そうにしている。
親に叱られてしゅんとしている子供のようだ。
綾「公私混同、ちゃんと考えて行動しないととんでもない事になるんですからね」
涼「はい…肝に命じます」
しかし結婚後、綾の言う『とんでもない事』になる。
肝のレベルではなく、命を賭けるレベルにすれば『とんでもない事』はなかったのではないか。
後々綾はそう思ったらしい。
大学から歩きながら叱られつつ、自宅に到着。
綾「…反省してます?」
涼「はい…」
綾「……反省の色が見えませんけど?」
涼「し、してるって!」
30分叱られれば反省はするはずである。
綾「こういうのはちゃんと反省しないといけません」
涼「…ど、どのような反省を…?」
綾「…目を閉じてください」
涼「え、目?」
綾「はい」
ビンタでもくらうのだろうかと不安になる。
だが、ここで逆らってはいけない。
涼「は、はい」
ぐっと目を閉じる。
綾「……」
すっと涼の目の前に近づく。
綾「開けてください」
目を開ける。
視界いっぱいに、綾。
涼「えっ、あっ、綾さ…」
ちゅっ
キス。
唇が離れる。
綾「…ふふっ」
綾がにこっと微笑む。
綾「それじゃ、これから晩御飯の準備をしますね」
綾は自宅に戻っていった。
ものの見事に不意打ちを喰らった涼は立ち尽くす。
涼「…駄目だ…あの娘さんにはかなわねぇ…」
こんだけ素敵な事されたら虜になってしまう。
いやもう虜になってるのだけれど。
涼「…一目惚れして良かったな…」
初めて出会った時を思い出す。
約5年前の出会いが今このような形になっている。
涼「……さて…と」
目の前にある自宅に入る。
晩御飯の手伝いをしないと。
反省はしたものの、やっぱり罪悪感はまだ残ってる。
涼「綾さーん、手伝うよー」
すたすたと台所に向かった。
途中、カレンダーに目が入る。
数日後にチェックがついている。
挙式の日。
あと数日後には、挙式が待っている。