※恋愛処方箋の続きです。読んでいない方は恋愛処方箋をどうぞ。
涼「んで、他には…と」
卒業アルバムをしまい、他のを見てみる。
すると、一冊の本らしきものが見える。
見覚えのある本だ。
涼「あ、こんなとこにあったか」
綾「何があったんですか?」
本を取り出す。
涼「俺の撮った写真のアルバムだよ」
中学時代からちょこちょこと写真を撮り続け、最終的には結構な量になった。
最初のページをめくる。
山の紅葉の写真。
時間がかかれてあり、時期は中学の頃。
涼「最初の頃は風景がメインだったな…」
何枚かパラパラとめくる。
涼「…ああ、ここから高校だな」
中学は風景だけで人は一切映っていないが、高校は人がいる風景になっている。
人もまた風景。
そんな風に意識したんだった。
さらにめくると、
涼「…3年だな」
時期まで断定できる。
それもそのはず、綾が映っている写真だった。
風景というより隠し撮りに近い。
綾「…こんなに撮ってたんですか?」
涼「……い、いや…俺もこんなに撮ってたなんて…」
2、3ページめくっても綾の写真が続く。
多分、この先も綾だろうから思い切って最後に近いページをめくった。
すると、1枚だけ飾ってあった。
綾「あっ…」
綾が思わず声を出した。
綾「これ…撮っていたんですね」
写真には、机の上に置かれた1枚の書類。
涼「うん、これは大切なものだから…」
時間はその写真が撮られる1時間前にさかのぼる。
大学4年、卒業間近。
涼「えっと…ただいま」
綾「お帰りなさい、涼さん」
どうも言い慣れない。
この家は自宅なのだが、かつての自分の家ではなく、婚約祝いとしておじいさんがくれた家だからだ。
元自宅でもなく、綾さんの自宅でもない、第三の家。
…まあ、すぐに慣れるだろう。
涼「とりあえず、持ってきたよ。これ」
鞄から取り出したのは一枚の書類。
その書類には婚約届と書かれてある。
大学の規則上、結婚はできないものの、書いても市役所に送らなければ問題は無い。
涼「…とりあえず、名前だけでも書こうか?」
綾「…はい」
居間に行き、テーブルの上に婚約届を置く。
涼「…えっと、どっちから行く?」
綾「え…ええと…涼さんからでお願いします」
書くだけ。
市役所に出さなければただの紙に名前を書く。
それだけなのに緊張する。
ペンを取り出し、婚約届にペン先を向ける。
……進まない。
すごく緊張する。
下手な字になってしまったらそれこそ台無しだ。
……でも…書かないと。
これは、俺が決めたんだから。
一生、守るって。
すうっと深呼吸をし、ペン先を書類につける。
そしてそのまま一気に名前を書く。
涼「…出来た」
…なんとも言えない感覚が来る。
これが、結婚するって事なのだろうか。
涼「じゃあ、綾さん書いて」
綾「はい」
今度は綾がペンを持って、書類に向かう。
そして涼と同様に、少し止まる。
…同じ気分なんだろうな。
止まっていたペンが動き出す。
名前を書いている光景。
涼「………」
もし、神様がいるのなら、こんなお願いをしたい。
死ぬ時に見ると言われる走馬灯。
走馬灯の最後のシーンは、ここにしてくれませんか。
きっと、忘れませんから。
必ず、好きでいますから。
ずっと、守りますから。
一生、愛していますから。
綾「…涼さん?」
涼「えっ…あっ…」
綾の声で我に戻る。
綾「書きましたけど…どうかしましたか?」
涼「ううん、何でもない。ちょっと考え事」
書類を改めて見る。
2人の名前が書かれている。
涼「…ん…」
ふと、カメラを思い出す。
鞄の中からカメラを取り出し、パシャリと一枚。
…記念とは違う。
思い出、というとちょっと違う。
証、だろうか。
これが一番近いか。
好きでいる事。
愛している事。
結婚をする事。
色んなモノが詰まった証。
涼「えーと、どこに置こうか?」
綾「じゃあ、私の机の引き出しでいいですか?」
涼「うん、それでいいよ」
あえて自分の所には保管しなかった。
自分の気持ちを、自分の所にしまってはいけない。
自分の想いを、ちゃんと受け取って欲しいから。
カレンダーを見た。
卒業が迫っている。
それと同時に、結婚も。
涼「……楽しみだな」
ぼそりと、呟いた。