春光

最終コーナー。
葵、臣、眞一郎はそのコーナーで待っていた。
2台のエンジン音が唸る。
臣「来た!」
眞「どっちが先行だ?」
先行は……………黄色のFD。
葵「和佳奈だ!」
コーナーを抜ける。
順位はそのまま。
そしてゴール。
葵「よっしゃ!」
臣「アブソリュート撃破だっ!」
眞「ふー、やっと終わったか…………」




負けた、か。
しかし、悔しさはない。
十二分に力を出せた。
芹「………速いな、彼女」





芹「完敗だな」
芹禾は苦笑いをした。
和「そんな、私はたまたま勝てたから…」
芹「偶然じゃないさ。君はあきらかに僕よりも速い」
臣「これから、どうするんだ?」
芹「アブソリュートを解散しようと思っていたが、それもやめたよ」
眞「じゃあ、遠征はこれからも?」
芹「ああ、これからも続けていくよ」
臣「また、一緒に走りたいな」
芹「もちろんさ」




芹禾は去っていった。
葵「いい人だったな」
和「走り屋に悪い人なんかいませんよ」
和佳奈は微笑んだ。
眞「さてと、アブソリュートには勝ったし、凱旋にでも行くか」
臣「ああ、そうするか」
和「あ、待ってください」
葵「え?」
和「やる事、もう一つあるんです」
眞「やる事?」
和「ええ」
和佳奈は葵の方を向いた。
葵「え?」
和「葵君、私と勝負してください」





翌日。
葵は同じ場所にいた。
葵の愛車であるレビンを眺めた。
セッティングは問題ない。
あとは……俺次第だ。
和佳奈はまだ来ていなかった。
ふと、耳にエンジン音が入った。
2台。
きっと臣と眞一郎だろう。



葵の予想通り臣と眞一郎のトレノとR34だった。
トレノから臣、R34から眞一郎が降りた。
臣「宮崎さんは?」
葵「いや、まだだ」
眞「準備、できたか?」
葵「ああ」
臣「理由、聞かされてないのか?」
多分、バトルする理由だろう。
葵「いや、それは本人に直接聞いてみる」
その時、ロータリーサウンドが峠に鳴り響いた。





ロータリーサウンドの持ち主、和佳奈がクルマから降りた。
和「お待たせしました」
葵「いや………」
葵は臣達の方に、
葵「すまない、和佳奈と話がしたいからゴールで待っていてくれ」
臣「わかった」
眞「気にするな、これはお前達の勝負だからな」
臣と眞一郎はクルマに乗り込み、ゴールへと向かった。



葵「和佳奈、理由を聞かせてほしい」
和「うん…」
葵「なぜ、今になって俺と戦うんですか」
和「正直言うとね、芹禾さんと戦うより、あなたと戦いたかった」
葵「………」
和「あなたは以前よりも格段にうまくなっています。それに、今回のアブソリュートの件でさらに上達しています」
葵「……」
和「この戦い、プロジェクト・ギアとしてではなく、私宮崎和佳奈としてあなたと勝負したいんです」
葵「……わかった」
葵はそのままクルマに乗り込んだ。




臣「どっち、勝つかな」
眞「宮崎さんは葵の能力に気付いているから、後ろにまわる。その後が肝心だ」
臣「いつ、前に出るか、か」
眞「タイミングを外すと負けが濃厚になるからな」
臣「宮崎さんにとって分が悪いな」
眞「けれど、彼女には葵も真似できないほどのアウト・イン・アウトを持っている」
臣「ふむ………」
2台のエンジン音が響いた。
臣「来たか…」
眞「どっちだ?」


先行は和佳奈。
臣「さすがに宮崎さんのコーナリングコピーは無理か!?」
最後のコーナーに入った。
FDはインに、そしてレビンはアウトからコーナーに突っ込んだ。
眞「アウトだと!??」
だがFDのラインをそのままとったのでは勝つのは無理だ。
そして、異変が起きた。
インをとったはずのFDがズルズルとアウトへふくらんでいった。
臣「出口がきついから、インをキープできない!」
一方、葵はその瞬間を逃しはしなかった。
瞬時にハンドルを切ってインに切りこむ。
アウト・イン・アウトの応用だ。
そして葵はインをキープ。
ラインがクロスする。





そして勝ったのは葵だった。




翌日、葵はゴールの場所にいた。
山側の木々を眺める。
桜が咲いていた。
昨日と今日はだいぶ暖かい。
そのため、開花したのだろう。
葵「和佳奈」
和佳奈は桜に魅入っていた。
和「あ、はい」
呼ばれてようやく気がついた。
葵「昨日のは、俺は勝ったとは思っていませんから」
和「え?」
葵「だって、途中でペースが落ちたし…」
そんな葵の言葉を聞いて、
和「……ふふっ」
葵「え?」
この人はまだ自分の能力に気付いていない。
でもそんな性格だから信頼できるのだろう。
葵「?」
和「くすっ………あ、そうだ」
葵「え?」
和「今回、葵君が勝ったけど、恋人になっているから、他のになりますね」
葵「ああ、あの時と同様ですか」
和佳奈と対峙して、初めて勝った時を思い出した。
葵「なんです?他のって」
和「……これですよ」
和佳奈は葵に近付き、そのまま葵の唇と自分のを重ねた。
そして2秒ほどして、和佳奈は唇を離した。
葵「え、こ、これって」
和「今回は特別ですよ」
和佳奈は真っ赤になりつつも、嬉しそうな顔だった。
そして、そんな光景を見ている男2人。
臣「おい、そこのバカップル」
葵・和「あっ!」
あわてて葵と和佳奈はそちらを振り向いた。
眞「いちゃいちゃするのは構わないが、天下の公道でするのは勘弁してくれ。
和「い、いつからそこに……」
臣「ん、とっくにな」
和「言ってくださいよ……」
和佳奈はあまりの恥ずかしさにしゃがみこんだ。
眞「まあ、そんだけ彼に夢中ってことか」
葵「あのな……、で、何でまたここに?」
臣「おいおい、ここは俺達のホームだぞ。地元が来なくて何になるんだ」
葵「そりゃごもっともだ」
眞「さてと、いっちょバトルしようや」
葵「よーし、じゃあ俺が行くぜ」
臣「よっしゃ、じゃあ俺が行こう」
眞「じゃあ、カウントは俺がやるよ」
葵と臣は乗り込み、眞一郎はスタートラインに立った。
和佳奈は葵の所に駆け寄る。
和「がんばってくださいね」
葵「ああ…………あ、これに勝つとごほうび、ない?」
和「……またですか」
葵「そりゃ、まあ……男ってごほうびが絡むと強くなるから」
和「……もし、勝ったら、また…………してもいいですよ」
葵「いよっしゃ」
臣「………バカップル、もういいか」
和「あっ、はいっ」
和佳奈は大慌てで離れた。
眞「よーし、カウント行くぜ!」
カウントダウンが始まり、そして―――――
道路に落ちた桜の花びらが舞った。
後書き
というわけで、ほぼ完結したような形になっています。
さて、次回は前作同様のギャグ系で行こうと思っとります。
もちろんアブソリュートのメンツもおりますので今回はにぎやかになりそうです。
それでは次回にて。