ぺた、ぺたと春香がよつんばいの状態で動く。
ようやく春香もハイハイが出来るようになった。
涼「…感動するな」
自分の娘が成長していくのは嬉しいものだ。
……そうだ。
涼「綾、試しに春香がどっちに来るか試してみようか」
要するに涼と綾のどちらが好きか、である。
綾「別にいいですよ」
綾は妙に自信があるようだ。
その自信に不安を感じ、
涼「…ハンデつけていいか?」
綾「どんなハンデです?」
涼「…これ」
手にしたのは振るとガラガラと鳴るおもちゃ、通称『ガラガラ』。
綾「構いませんよ」
しかし綾は動じない。
…どこからその自信はあるのだろうか。
春香と少し距離を置いて、綾と涼は2人の間を少し離れて座る。
涼「…よし、スタート!」
早速ガラガラを鳴らす。
ただし、うるさすぎると来ない可能性があるので控えめに。
そもそも最近春香はこのガラガラが気に入っているようだ。
最近のブームに乗るのは基本だろう。
勝利を確信した。
が、春香のハイハイは明らかに綾の方へと向かっていた。
そしてそのまま綾の所へ。
綾「はい、頑張ったね春香」
涼「えー!?春香はお父さんが嫌いなのか!?」
極端な結論だ。
涼「くっそー、ガラガラはもう興味ないのかな…」
しかし、ガラガラの音に反応したらしく、春香が喜びの声を出す。
涼「そういうわけでもないか…」
涼はある事に気づいていない。
春香にとって綾はかつて自分がいた場所なのだ。
自分の故郷を忘れる者などいない。
そして、綾はその事に気づいている。
だから、涼のハンデも問題は無かった。
涼「うーん…どうすれば春香が来てくれるんだろ…」
涼がその事に気づかない限り、きっと春香は来ないと思う。
…気づいたところで勝算は上がるわけではない。
綾を上回るものなどないのだから。