………ッギャァァァァァァ………。
甲高いスキール音がこだまする。
一般人からすれば騒音の何物ではないと思われるが、走り屋にとっては心地よい音だ。
そして峠の山頂にてバトルを観戦している男女。
男性の方、篠原葵はスキール音に耳を澄ましつつ、眺めていた。
葵「いい腕ですね、和佳奈さん」
しかし、女性の方、宮崎和佳奈は厳しい評価だった。
和「いい腕とは言いがたいわ、突っ込みが甘い」
葵「そりゃあ、和佳奈さんに比べりゃ対した事はありませんよ」
葵は苦笑いした。
和佳奈はこの峠ではNo.1の実力者で、葵はNo.2の腕を持っている。
ただ、和佳奈がNo.1の腕を持っているということよりも、和佳奈の乗る車である黄色の『FD3S』がこの峠のNo.1であるということが知られている。
和佳奈がFDの持ち主であることは彼女に挑んだ人とその知人程度だ。
そして、この峠では敵無しとなった。
葵「次の遠征場所、どこです?」
和「えっと、今度は……茨城ね」
そして、その勢いは県外へとのびていった。
葵「茨城か………強そうなのいればいいんですけど」
前回の遠征では大差で勝利していた。
そのためか、葵は欲求不満気味だった。
和「ふふっ、じゃあ、私が相手してあげようか?」
葵「本当ですか?」
和「本当よ、それに私に勝つチャンスじゃない」
葵「じゃあ、あの約束はまだ時効じゃないですよね」
和「約束って…………私に勝てたら付き合うってやつ?」
葵「そうですよ。今度こそ勝ってみせますからね」
そう言って、葵は張り切って愛車の赤いターボチューンレビンに乗り込んだ。
その様子を見ていて、和佳奈はくすっと微笑んだ。
こんな車バカを好きでいてくれてる人がいるなんて…………。
FDに乗り込みつつそう思った。
キーを差込み、エンジンを入れる。
手加減………してあげようかな。
そうしたらあいつ、どんな顔するんだろう。
勝った時のあいつの顔はどんな顔するんだろう……………。
一方、葵の方は車に乗り込んだ途端に溜め息をついた。
葵「なんとか勝って、これを渡さないとなあ……」
葵は手に持っていたジュエリーボックスを転がしていた。
開けると、中には指輪があった。
あの人に負けて、何度か勝負しているうちに惚れていた。
葵「今度こそ、勝つぞ…」
あれからテクニックも磨いたし、車のチューンも施した。
後はどこまであの人についていけるか、だ。
葵はジュエリーボックスを閉じた。
そして十数分後、和佳奈は喜んだ葵を見れたが、それ以上に和佳奈自身が喜ぶことになるとはまだ2人はその事を知らない。