海沿いに建つ教会の中。
参加者である一同が数メートルはある長椅子に座る。
梨「しっかし、あの二人よくこんな教会探したわね」
臣「結構前から探してたらしいぜ」
茜「映画とかドラマにありそうな教会やな」
潤「というか、俺らこんなとこに教会があるなんて知らなかったな」
この教会、ほんの少し前に涼達がいた大学のそばにあったのだ。
美「でも、涼さん達も最初は知らなかったらしいですよ」
眞「場所で揉めてる最中にこの建物を見つけたらしいぞ」
梨「…ケンカの最中に見つける、か。あの2人らしいわね」
潤「…そういやお前らの予定はどうなんだ?」
涼と潤子の婚約はすでに知っていたが、臣と梨花、眞一郎と美夏の行方が気になっていた。
梨「まだよ。さすがに2人いっぺんはマズイからね」
茜「一応親には伝えたんやろ?」
眞「一応、な」
臣「その直後に猛反対。今現在は説得中」
美「もう少し、かかりそうですね」
眞「ま、気長にやっていくさ」
梨「そういう事。頑張ってよ、『旦那様』」
臣「へいへい」
潤子「…な、何か緊張するね」
すでにウェディングドレスに着替えている潤子は緊張でガチガチになっていた。
午前中に市役所に婚姻届を提出し、無事に受理され夫婦となった。
午後、というか今は結婚式の直前。
涼「んー、そうかな…」
一方、涼は緊張していない。
涼「どっちかというと婚姻届出した時の方が緊張したよ。受理されなかったら一巻の終わりだったんだし」
潤子「それはそうだけど…」
涼「歩く途中でコケたりしないようにね」
潤子「そっ、そんな事しないわよ、多分」
涼「……『多分』というのが果てしなく怖いんだけど」
もしコケたらテレビに時々放送されるハプニングビデオみたいな記憶が脳に焼きついてしまう。
潤子「……でも、きっと大丈夫かな」
涼「…え」
潤子「一生の思い出だもん。身体だけじゃなく、私の細胞全てが頑張ろうってなるから大丈夫」
よくテレビで流れる結婚式のハプニングは投げたブーケが変な所にいってしまう等、第三者の存在がハプニングを引き起こす。
逆に言えば新郎新婦は失敗をしないのだ。
涼「そっか…なら問題はないか……あっ」
ふと、ある事を思い出した。
涼「そういや潤子さんにまだ言ってない事があったんだ」
潤子「言ってない事?」
涼「うん。だけどそれは式の途中で言うよ」
潤子「途中…ってどの時に言うのよ」
涼「んー…内緒」
潤子「えー…何よ、気になるじゃない」
そしてそのまま結婚式の本番を迎えた。
今は私1人で教会の入口にいる。
涼君はすでに教会の中にいる。
入口の扉を開けて、ゆっくりと中に入る。
直後、一斉に拍手が起こる。
バチバチとした激しい音ではなく、柔らかく、優しい音。
チラリと客席を見る。
ベールで見づらいが、最初に視認したのは梨花。
一番通路側にいた梨花が微笑んでる。
その隣にいた臣も拍手をしながら笑ってる。
さらに隣の美夏、眞一郎、潤、茜も。
唯一欠席している芹禾も別の所で微笑んでるに違いない。
やがて、涼君の真横に着く。
拍手が止み、神父の声が教会に響く。
ドラマとかでよく聞くお馴染みの『あなたは彼女を愛しますか?』というセリフが放たれる。
涼君が『誓います』と応える。
神父の言葉に私に向かって放たれる。
私も答えた。
……ああ、結婚したんだ。
涼君の…涼君の…。
胸がぎゅっとなる。
どう説明したらいいのかわからない感覚。
嬉しいとは違う、感動とも違うモノが胸に刺さる。
神父が次のセリフを放つ。
『では、誓いのキスを』
キスは今まで何度もした。
……大衆の面前でした事もあったっけ。
ふと、式の前の涼君の言葉を思い出す。
『まだ言ってない事があったんだ』
それはまだ聞かされていない。
結局なんだったのだろう。
…もしかして忘れている?
……まあ、それでもいいか。
終わった後で聞けばいい。
涼君がベールをゆっくりとめくられ、私の顔が教会内にさらされる。
涼君の顔がゆっくりと近づく。
その時だった。
涼君が私にしか聞こえないぐらい小さな声で話しかけてきた。
涼「潤子さん」
潤子「え…」
涼君は微笑み、
涼「愛しています」
まだその言葉は聞いていなかった。
いや、ずっと聞きたかったのかもしれない。
その、言葉を。
涙があふれそうになる。
でも、こらえる必要は無かった。
こんなに嬉しいのを我慢する必要なんてないから。
すうっと涙は瞳からこぼれおち、頬を伝わる。
涼君はその光景を見て、ゆっくりと目を閉じ、さらに近づく。
私も目を閉じた。
私も、愛しています……。