涼「あー………疲れた…」
ベッドに大の字で倒れる。
出張は終わったが、終電に間に合わなくなり、やむなくホテルで一泊する事になった。
先程家に連絡したが、さすがに寂しい。
涼「早く明日になんねえかな……」
いや、すでに午前零時を過ぎたのですでに明日だが。
すぐに寝たい気分だが、とりあえずシャワーを浴びてさっぱりしたかった。
ふと、ドアからノックの音がした。
……澪課長だろうか。
ドアを開けると、予想通り澪課長がいた。
涼「課長、どうしました?」
澪「いえね、なんだか眠れないからお酒に付き合ってもらえない?」
涼「いいですけど、どちらで?」
澪「じゃあ、涼君の部屋でいい?」
涼「ええ」
澪「じゃ、乾杯」
涼「乾杯」
くいっと一口。
涼「ふう…………仕事の後の一杯はうまいですね」
澪「ふふ、今日は大変だったでしょ?」
涼「ええ、今日は特に」
澪「ところで、奥さんの綾さんとはどう?」
涼「と、おっしゃいますと?」
澪「以前、私と何か関係を持ったみたいだったし」
涼「ああ、あれですか。泣かれてしまいましたが、まあなんとか誤解を解きました」
澪「あらあら、女の子を泣かしちゃいけないでしょ」
涼「そうおっしゃいましても……」
澪「子供も生まれたし、あまり奥さんを泣かしちゃだめよ」
涼「ええ。極力綾を泣かせるような事はしませんよ」
澪「そういえば、社内の女子にも好かれてるみたいね」
涼「そうですか?」
実は社内では多くの女子に好かれている。
その原因は涼の時折する昼寝だった。
その寝顔が女子社員のハートをつかんでいた。
その多くの女子社員全てがこれによるものだった。
涼「……まあ、どういうわけかみんな優しいですけど」
………それは全て好意による行為だと思うのだが。
まあ言わないでおこう。
その方が色々と楽しい。
澪「ところで、明日はどうするの?」
涼「おみやげでも買っていこうかと」
そして朝。
涼「おはようございます」
澪「おはよう。これから朝食?」
涼「ええ、今日は休みですから。一緒に食べます?」
澪「おごりよね?」
涼「………誘った手前、仕方ないですね」
澪「じゃ、行きましょうか」
涼「そうですね」
そんなわけで朝食を食べに行こうとした時、
澪「きゃっ」
後ろの澪課長がこけ、ぼふっと俺の後ろに当たる。
涼「大丈夫ですか?」
澪「ええ、なんとか……」
とりあえず大丈夫なようだ。
スーツを着て、朝食を食べに行った。
おみやげを買い、せっかくの休日なので綾や春香が寂しそうにしてそうなので至急家路へと向った。
涼「ただいま〜」
綾「お帰りなさい。涼さん」
涼「春香は?」
綾「春香でしたら今はお昼寝中です」
涼「そっか……あ、おみやげ買ってきたんだ」
綾「とりあえず、スーツを脱いだらどうですか?」
涼「ああ、そうするか」
綾に上着を脱がせてもらった。
綾「今日の晩御飯は何に……………………」
ふと、綾の様子がおかしい。
涼「どうした?」
後ろ向きのまま話しかける。
綾「……………………何です、その背中……………」
背中?
背中、背中、背中、せな……………あ。
澪「きゃっ」
後ろの澪課長がこけ、ぼふっと俺の後ろに当たる。
………あの時だ。
口紅が俺のシャツについたんだ。
……………後ろを向くべきか、そうでないべきか。
というか向いても向かなくても結果は…………俺が死ぬのだろう。
……………誤解を解くのが先か、俺が死ぬのが先か。
ばっ、と俺は綾の方を向いた。
その後、かろうじて生き残ったのはお約束という事で。