平日の昼。
昼御飯を済まし、綾はやる事がなくなった。
最愛の旦那は仕事である。
春香は今のところお昼寝中。
主婦というのは極端に忙しかったり極端に暇な時がある。
そして後者が今、である。
綾「暇だなあ………」
敬語を使わない時は涼といる時か1人の時ぐらいである。
最初、涼と出会った時はまだ敬語を使っていた。
それから少しずつ中を深めて行き、今に至る。
ただ、それでも敬語を使う時の方が圧倒的に多いのだが。
しかし綾にとって敬語というのは敬語でないものとなった。
普段話す言葉が敬語として使っているため、敬語と思っていないからだ。
ふと、足音が聞こえた。
春香が起きたのだろう。
綾「春香?」
春「なんだか……ねむれなくて…………」
綾「無理して寝なくてもいいわよ」
春「はい…………」
寝る子は育つと言うが、無理に寝かせる必要はない。
無理に寝かせてしまうと夜になって寝るのが大変になる。
綾「それじゃ、絵本読む?」
春「ううん………お母さん、なんで……その……」
綾「え?」
春「お父さんと結婚したんですか?」
綾「…………」
まさか春香からこんな質問が来るとは思わなかった。
しかしどうやって子供が生まれるのか、という質問よりはましだった。
綾「……もう、7年くらいになるのかな。涼さんと出会ったの……」
春「涼さんって?」
綾「お父さんの名前よ」
春「おとうさんとおかあさん、いつ会ったの?」
綾「高校3年、17歳の時にここに引越して、学校のお手紙を届けてくれたのが、お父さんだったの」
春「へえ…」
綾「お父さんは私に一目ぼれだったの」
春「一目ぼれって?」
綾「一度会っただけで好きになる事よ。それで少しずつ仲が良くなって、私もだんだんあの人が好きになっていく……好きで好きでしょうがなくて………」
綾ははっとなった。
春香があっけにとられている。
その途端、真っ赤になった。
話すのに夢中になりすぎた。
綾「え、えっと、そういうなりゆきでお父さんと結婚したの」
春「ふ〜ん、それじゃあ、何でおかあさんはおとうさんを好きになったの?」
私が涼さんを好きになった理由。
綾「そうね…………誠実で…あ、思いやりがあって優しい人の事よ。それから純粋で、何かに一生懸命になるところに好きになったのかな……」
春「かっこいいとか、なかったんですか?」
綾「……確かにそれもあるけど………やっぱり心が素敵な方が私は好きよ」
春「…………」
難しかったのだろうか、春香は首をかしげた。
春「じゃあ、おかあさん、今、しあわせ?」
綾「もちろんよ」
綾はにこりと微笑んだ。
春「じゃあ、次なんだけど」
綾「今度は何?」
春「どうやって子供ってできるの?」
綾「……」
いつかはくると思っていた。
しかしそのいつかが今とは夢にも思わなかった。
さて、どうやってこの難題を切り抜ければいいのだろう。
綾「そ、それはまた今度ね」
春「えー」
それしか言いようがなかった。
こういうのは涼さんの方が詳しい。
しかし、涼さんの事だからストレートに言いそうで怖い。
それなりに考えておこう。
綾「お話はもうおしまい?」
春「はい……」
春香は眠そうな顔をしてきた。
綾「お昼寝、する?」
春「うん………」
春香は部屋へと戻り、布団に入り込んだ。
じきに眠るだろう。
ふと、外の気温を感じた。
太陽が照っているためか、とても暖かい。
気持ちのいい暖かさだった。
少しずつ、少しずつ意識が遠くなっていった。
涼「ただいまー」
春「おとうさん、おかえりなさい」
涼「あれ、綾は?」
春「おかあさんなら、あそこで寝ています」
綾「すー………すー……………」
柱を背にして気持ち良さそうに寝ていた。
疲れていたみたいだな……
涼「お母さん、疲れているみたいだから寝かせてあげよう」
春「晩御飯、どうします?」
涼「今日はお父さんが作るよ」
春「わあ、本当?」
涼「ああ、こうみえても料理はできるほうだ」
春「じゃあ、一緒に買い物行きましょう」
涼「ああ、じゃあ先に玄関の外に行っててくれ」
春「はい」
春香はててて、と玄関へと向かった。
俺は押入から毛布を取り出し、それを綾にかける。
綾の寝顔をのぞく。
幸せそうな顔をしていた。
そんな綾の顔をみてくすっと笑った。
涼「おやすみなさい、綾」
そう言って俺は綾の頬にキスをした。