雨が降っていた。
どしゃぶりだ。
きっと辺りは水溜りだらけだろう。
雨が降り始めて1時間は経とうとしている。
天気予報では晴れだったのに。
通り雨だろう。
信「幸枝」
不意に父に呼ばれた。
綾の母「お父さん、どうかしました?」
信「いやなに、外がこうじゃからな」
散歩が趣味のため、外が大雨ではどうしようもない。
よって、中でじっとしているわけだ。
綾の母「ふふ、退屈だから話でも?」
信「うむ」
信蔵は幸枝の隣に座った。
信「綾達は?」
綾の母「多分、あの子も同じだと思います。こんな雨では……」
信「……なあ、幸枝」
綾の母「はい」
信「……再婚する気、ないのか?」
ぴくっと幸枝が動いた。
綾の母「どうしたんですか、急に」
信「………綾も嫁ぎ、ひ孫も生まれた。お前が背負うものはなくなったとわしは思う」
綾の母「………」
信「…………忘れ…られないのか?」
幸枝はうなづいた。
綾の母「……あの人以外に……考えた事は……」
信「ふむ……」
綾の母「それに、お父さんが婚約を許した人ですよ」
信「……あの男は、純粋だった……」
綾の母「どうして、良明さんとの結婚を許したんですか?」
信「それは…涼と同じ目をしていたんじゃ」
綾の母「目……」
信「一点の曇りもない、純粋な目。玉の輿とかそんな欲を考えずに、ただ純粋にお前を愛している。そんな目じゃった」
綾の母「一目ぼれ……だったのかな……」
信「うん?」
綾の母「涼君が、綾を好きになったのが一目ぼれだったから、もしかしたら、良明さんも…かな、と」
信「……聞いて、なかったのか」
綾の母「えっ!?」
信「あの男と、酒を飲みながら話していた時、幸枝の話になったんじゃ、その時に一目ぼれだと言っておった」
幸枝は衝撃を感じた。
初めて、一目ぼれだと知った。
信「…幸枝には何も知らされていなかったか」
綾の母「きっと、照れくさかったんでしょう。あの人は、変な所で意地っ張りでしたから………」
信「………今さらかもしれんが、幸枝」
綾の母「はい」
信「お前は今、幸せか?」
綾の母「もちろんです」
幸枝は微笑んだ。
ふと庭に目をやると、雨は止んでいた。
綾の母「止みましたね、雨」
信「うむ……」
太陽が、庭の木々を照らしていた。
明日は、きっと晴れるだろう。