涼「うん…?」
ふと、帰り道がにぎやかになっていた。
涼「あっ、そういや今日は縁日だったな」
縁日か………。
あの甘ずっぱい記憶が蘇る。
綾とのファーストキスが縁日だったな…。
涼「………そうだ。綾と春香と一緒に来よう」
春香は縁日が初めてだ。
きっといい思い出になるんだろうな。
涼「ただいま」
綾「涼さん、お帰りなさい」
春「おとうさん、おかえりなさい」
涼「ただいま、春香」
綾「涼さん、見ました?縁日」
涼「ああ。綾と春香と一緒に行こうと思ってた」
春「ほんとう!?」
涼「ああ。早速行こうと思ってるけど……準備、できてる?」
綾「ええ。できています」
涼「おっ、やってるやってる」
綾「賑やかですね」
春「わあ……」
涼「よし、順番に見て行こうか」
涼「お、杏飴」
綾「………買い……ます?」
どうやら綾も『あの事』に気付いたようだ。
まああれが事実上のファーストキスになるわけだが。
涼「買おうか」
綾「はい……」
春「おかあさん、お顔、まっかですよ?」
綾「えっ!?そっそんな事はないわよ!?」
涼「くくっ……」
思いっきり顔に出ていた。
綾「涼さんっ!!」
そして杏飴を購入。
春香の分と俺と綾の分2つを。
涼「……綾から先に食べる?」
綾「………涼さんからどうぞ」
涼「いいの?」
綾「あの時は私からでしたから」
……ああ、あの時の逆を楽しみたいわけですか。
ぱくっと口に入れる。
冷たくて甘い。
この後、これが綾の口にも入ると思うとさらにおいしく感じた。
ふと、視線を感じた。
その視線の元をたどると……綾。
こちらと目が合った途端、真っ赤になった。
多分、こちらと同じ事を考えていたのだろう。
一方、春香は綾の反応に疑問を感じながら杏飴を食べていた。
涼「おっ、お化け屋敷か」
その途端、
ぎゅっ、と2人が俺の腕にくっつく。
………そういや、以前綾と遊園地に行ってお化け屋敷の前を通るとこんな状態になったな。
で、怖がりながらも入っていったんだよな。
………………ということは。
涼「…………入る?」
2人がびくっと動く。
……ああ、親子だ。
伊達に綾の血を継いでるだけあるな。春香。
綾・春「は、はい……」
さすが親子ですな。
というわけで中に入る。
ちなみに俺はお化け屋敷は平気。
作り物と考えればたいして怖くはないし。
というかそれ以上の体験をしてるから屁でもない。
涼「………春香、綾」
綾・春「はい」
涼「………俺を盾のように前に突き出さないでくれ。俺は生贄じゃないんだから」
綾・春「は、はい」
他人を盾にするフォーメーションを解いた瞬間、
バッ
横から河童が飛び出てきた。
涼「おっ……」
唐突だったのでちょっとびっくりして声が出た。
だが、その声は
綾・春「きゃあああっっ!!」
2人の声にかき消された。
そして2人は先へと走り出してしまった。
涼「あ……」
ものの見事においてけぼりをくらった。
河童「………大変ですな」
河童も同情しているようだ。
涼「ま、予想していた事ですから」
暗闇で見えない先の方から2人の悲鳴が聞こえた。
涼「やれやれ……」
このお化け屋敷よりも2人の悲鳴の方が面白く感じた。
春「すー…すー………」
はしゃいだせいか、すっかり眠くなった春香を背負いながら家路へと向かった。
涼「春香にとって初めての縁日だったからな。楽しかったんだろうな」
綾「そうみたいですね」
涼「……覚えてる?あの時の事」
綾「……はい」
赤くなりつつも、にこっと笑った。
涼「あの日はほんの数時間で色んな事があったな。綾の浴衣姿、杏飴に雷、そしてファーストキス。色々あったな……」
綾「私も覚えてますよ。はしたない所を見せたりとか…」
涼「ああ、雷の事?俺はそうは思わなかったよ」
綾「そうなんですか?」
涼「誰だって嫌いなモノはあるさ。俺だって苦手なモノあるし。欠点は立派な個性さ」
綾「ありがとうございます」
涼「まあ、雷で怖がってる綾がかわいいってのは春香や母さんには内緒にしておくよ」
綾「もう、涼さんったら…」
涼「まさか春香もお化け屋敷に入るとは思わなかったな。やっぱり綾の娘だな」
綾「………私と動きがそっくりでしたからね」
涼「少しくらい、俺に似ててもいいのになあ………父親としては似ている所があると嬉しいんだけどなあ……」
綾「ふふ………似てる所はありますよ」
涼「どんな所?」
綾「気付きませんでした?とっても涼さんに似ている所がありましたよ」
涼「え?あったかなあ………」
春「んん……」
涼「おっと、春香が起きそうだ。いちゃいちゃはここまでしておきますか」
春「ふふ、そうですね」
涼「春香にはいい思い出になったかな」
春「ええ、きっと…」