梨「……ねえ、そういえばさ」
潤子「ん、何?」
梨「あんた綾の事好きって言ってたじゃん」
潤子「それがどうかしたの?」
梨「……告った?」
潤子「うっ…」
このリアクションからすると告白はしていないようだ。
梨「あんた好きとかぬかしてたけど、全然言えてないじゃん」
潤子「う…いや……その…」
梨「…口先だけ?」
潤子「ううっ」
改心の一撃。
梨「この学校も女子校だからね……ひょっとしたらアンタ以外にも綾を狙ってる娘がいるかもねー」
潤子「!」
梨花の一言で潤子の闘争心に火が点く。
潤子「よ、よしっ、告ってやろうじゃないの」
お昼。
とある場所に綾を呼び出し、潤子は先にその場所で待つ。
しばらく待っていると綾が来る。
綾「ごめんなさい、お待たせして…」
潤子「う、ううん。あたしも今来たところだから」
綾「ところで、話があるって言ってましたが…」
潤子「あ、うん、それのことなんだけど…」
その時、鐘が鳴る。
カーン、カーン、カーン…。
凄まじい鐘の音。
潤子が綾を呼んだ場所は、鐘の真下。
綾「きゃっ…」
綾は思わず耳を塞ぐ。
実際の音はそれほどではない。
ただ綾はこの音が初めてなだけ。
潤子「ねーえ、綾〜、聞こえる?」
綾に呼びかける。
綾「えっ?何です?聞こえないですよ」
綾からだと潤子が何かを言っているように見えるが、鐘の音が大きすぎてまったく聞こえない。
潤子「……綾〜、大好き〜!」
こういう状況を利用して告白を始めた。
梨花が見てたら『何よ、このヘタレ女』と暴言をぶちかますのだろう。
この潤子という女、確かにヘタレではある。
綾「なんです?聞こえません〜!」
綾がちょっと困った顔をする。
ああ、いい顔してる…。
潤子「だから、好きだってば〜!」
すると、調子に乗ってる潤子の真上の鐘の側に、小鳥が一羽。
ぴぴぴっ。
まだ飛ぶのに慣れていない小鳥。
どこへと降りようと探していると、うまい具合に乗れる鐘を見つける。
ぴぴぴっ。
鐘の上に乗る。
カーン、カーン、カー…
ぴたっと音が止む。
だが、潤子の声が止まらない。
潤子「綾〜、大好き〜っ!!」
自分のした行為に、ぴたりと固まる。
潤子の声は、バッチリ綾に届いていた。
潤子の言葉に、綾は真っ赤になる。
綾「あっ…えっ…そ…そのっ……」
思わずその場から逃げ出してしまう。
潤子「あっ…」
自業自得である。
鐘を見上げた。
鐘の上にいた小鳥を見つける。
ぴ?
潤子の視線に気がつく。
ただし、それが殺意とは気がつかない。
潤子「…この………」
ポケットにある10円玉を握り締める。
潤子「こんのクソ鳥―――っっっっ!!!!」
メジャーリーガー並の剛速球で投げる。
ガチンッ
小鳥の足元のすぐ側に当たる。
ぴーっ!
大慌てでその場から飛び去る。
ここの人達エサをたくさんくれる優しい人達なのにっ!
これ以降、この小鳥はこの学校に二度と来なくなる。
梨「…なにバカみたいな事…ていうかバカやってんのよ」
当然である。
梨「そんないい加減な告白だからそんなオチがあるのよ」
潤子「だって……告る勇気なかったんだもん」
梨「まったく……とにかく一度告ったんだから返事を聞いてみたら?」
潤子「あ、あんなのの返事を聞くの!?」
梨「当然でしょ。一応告白になるんだから」
梨花に言われるまま、校舎の屋上で待つ。
綾は梨花が呼んでくれるようだ。
……もしフラれたらどうしよう。
…いっそここから飛び降りてしまおうか。
そんな物騒極まりない考えをしていると、入口から物音がする。
誰かが上ってきた。
多分、綾だろう。
入口のドアが開く。
予想通り綾だった。
綾「あ、あの……おまたせ…しました」
潤子「う、ううん…」
会話が続かない。
あのいい加減な告白のせいである。
潤子「えと、その…さ……昼休みの事なんだけど…さ…」
綾「は、はい……」
潤子「その……どう…思った?」
綾「どう…と……」
潤子「…怒った?」
告白をするにしても、あんないい加減なものでは真面目な綾は怒るであろう。
綾「い、いいえ、そんな事ありません」
綾の返答は意外なものだった。
潤子「そ、そうなの?」
綾「はい、だって告白する時は誰だってすごい勇気がいるじゃないですか」
そう、告白をする時に最も必要なものは『勇気』だ。
綾「その勇気をちょっと借りて言えるなら、あの方法は……怒りませんよ」
潤子「そ、そう…良かった…」
どうやら怒ってはいないようだ。
綾「ですから、ちゃんと言ってください」
潤子「!」
綾「もう一度、誰の力を借りる事なく、潤子さんの勇気だけで」
潤子「っ!」
その言葉に胸を突かれた。
言わねばならない。ちゃんと。
潤子「う、うん。言うね。ちゃんと」
深呼吸をして、綾に向く。
潤子「あたしね、綾の事が好き」
最初に、言うべき言葉。
潤子「友達とかじゃなく、恋人として好きなの」
そして誤解をされない言葉。
潤子「女同士でもいいじゃん。好きなんだもん」
そして最後は子供のような理屈。
潤子「……や、やっぱり…ダメ?」
言うべき事は言った。
あとは綾の返事を待つ。
綾「え…と……」
潤子「やっぱり女が女を好きになるのって気持ち悪い?」
綾「そ、そんな事ありません。好きになるのってそんな事どうでもいいんです」
潤子「えっ…」
綾の言葉は潤子の告白をゆっくりと受け止めたように感じた。
綾「その……嬉しいです」
ゆっくりと返事が来る。
綾「私でよければ………潤子さん、私も…好きです」
そして、はっきりとした返事。
その言葉を聞いた瞬間、潤子は叫ぶ。
潤子「ぃやったああぁぁぁっ!」
と、同時に綾に抱きつく。
告白に成功したのだからそらまあ抱きつく権利は一応ある。
綾「え…ぁ…あ…」
綾はいきなり抱きつかれるとは思わなかっただろう。
潤子「大好きっ」
そしてさらにほっぺたにキス。
この女、いきなりリミット解除。
綾「あっ……あぅぅ…」
怒涛の攻めで綾は軽く昇天した。