あなたが泥酔する時

時計を見ると、時刻は9時をさしていた。
涼さんは今日は飲み会の予定になっていた。
そろそろ帰ってくるかな。
ピンポーン。
こんな時間に来客なんて珍しい。
町内会の人だろうか。
玄関へと向かい、戸を開ける。
すると、見慣れない女性がいた。
私よりもいくつか年上の人。
しかし、女性の肩を見て驚いた。
綾「涼さん!?」
涼さんが女性にもたれかかっている。
よく見ると涼さんはぐったりしていて私の声にも反応しない。
女性「や、夜分遅くにごめんなさい。部下の涼君が酔いつぶれちゃって…」
そういえば今日は飲み会があった。
だからこんな事になったのか。
そして女性の言葉から考えるとこの女性は涼さんの上司だ。

涼さんに濡れたタオルを額に乗せ、少しでも酔いを醒ますようにしておく。
目が覚めたら暖かいお茶を淹れよう。
上司の女性の澪さんはそのまま帰らせるのは失礼と思ったので居間に上がってもらった。
お茶とお菓子を用意する。
綾「粗茶ですが、どうぞ」
澪「ごめんなさいね。涼君が酔っぱらったのは元はといえば私のせいなんだけど…」
綾「そうなんですか?」
澪「私のウォッカを水と間違えて飲んじゃったのよ」
確かウォッカはアルコール度数がとても高い、私でも知っているお酒だ。
一気に酔いが回ってしまったのだろう。
綾「あの……涼さんは酔っぱらって他の同僚の方に迷惑をかけませんでした?」
もし殴り合いとか上司につかみかかっていたら大変な事になってしまう。
澪「…あー……迷惑という迷惑はかかってないけど……ただその……」
綾「…その?」
澪さんの言葉が妙に気になる。
澪「『俺の嫁さんが一番可愛いんだ』って何度も言ってたのよ」
まさかの嫁さん上戸だった。
綾「も、申し訳ありません。私の亭主がとんでもない事を…」
澪「ううん、いいのよ。会社でも結構知られてるから」
いつの間にか涼さんはそんな事を言っていたのか。
頭が熱くなってくる。
澪「でも、酔っぱらっている時ってたいてい胸に秘めてる本音が出るものなのよ」
確かにテレビでもそういうシーンは数多い。
澪「よっぽど奥さんを大事にしているのかがよくわかるわ」
綾「そ、そうですか」
自然と笑みがこぼれてしまう。

澪さんはお茶を飲み終えて家路へと向かっていった。
酔っているようには見えないほど綺麗な歩き方だ。
ウォッカを飲めるくらいなのだから酒豪なのだろう。
さて、涼さん用のお茶を用意しないと。

涼「うっ……うう……」
コポコポと湯呑にお茶を淹れていると、涼さんの声が聞こえた。
意識が戻ってきたようだ。
濡れたタオルと淹れたばかりのお茶を持って涼さんの所へ向かう。

涼さんはまだ酔いが回っているためか、ぼーっとしている。
綾「涼さん、お帰りなさい」
涼「…あれ?綾?」
どうやら家に帰ってきたのもわかっていないみたい。
綾「はい、どうぞ」
濡れたタオルを渡すと、すぐに顔を覆った。
涼「あー…酔った酔った」
酔っている事は自覚しているようだ。
顔のほてりが少し冷めたところでお茶を渡す。
涼「あー……ほっとするな」
ようやく落ち着いたみたい。
涼「……ところで俺どうやって帰れたの?」
おそらくウォッカを飲んだ所までは覚えているようだ。
綾「澪さんが送ってくれましたよ」
涼「あー…主任が助けてくれたのか……明日お礼するか」
お茶を飲みつつ、涼さんは私の顔をじっと見た。
涼「……なんでそんな笑顔なの?」
綾「えっ!?」
私の表情には、澪さんの話の余韻がまだ残っていた。

後書き

今回は何年か前に泥酔した時の事を元にして書きました。
実際はこんなになるまで飲んではいないんですけどね(笑)。
この出来事以降、チャンポンは止めようと誓いました。
まあ昔に比べて飲む回数は増えたかなーと思います。齢かな。
酒は『楽しむもの』として飲みましょう。
それでは次回にて。