満月の夜に猫は啼く

綾「もーっ!涼さんったら!」
綾は完全にぷんすかぷんの状態だ。
原因はと言うとアレなビデオを借りてきたからである。
アレなビデオを借りてきた事に腹を立てているのか、それとも『私というものがあるのに!』とヤキモチを妬いているのか。
まあ、とりあえずこの状況を打破しなければならない。
…とは言うものの、選択肢は非常に少ない。

1。素直に謝る。
2。逆ギレで力でねじ伏せる。
3。大穴を狙う。

この3つしかない。
しかし謝ったところで綾のぷんすかぷんは収まることはないし、逆ギレをすると泣いてしまって逆効果になるだろうし。
……いちかばちか、3の大穴狙いでいくしかない。

涼「んー…じゃあ、一緒に見る?」
大穴の正体はこれである。
綾「えっ」
ボンッと綾の顔が赤くなる。
ぷんすかぷんのエネルギーは別の方へ流れていったようである。
一世一代(?)の博打は成功のようだ。
涼「嫌?」
綾「そっ、そんなことは…ない…です…」
涼「それじゃ決定ということで」
綾「ぅぅ…」

夕食が終わってさらに時間経過。
寝るにはちょっと早い頃。
2人はベッドの上に集合し、テープをビデオデッキに挿入する。
早送りをして、最初の暗幕、メーカー名を飛ばす。
行為の開始の映像が見えた頃に、早送りを止めて、再生を開始する。
男女のキスから。
アダルトビデオというカテゴリーのせいか、妙にねちっこく見える。
すでに綾は真っ赤になっていた。
果たして綾は最後まで正気を保っていられるのやら。

男はキスをやめ、女の身体をまさぐる。
…そもそも綾はちゃんと見ているのだろうか。
逃げ出さないように後ろから抱擁をしているので逃げれないが、目をそらす事はできる。
ただ、腕もまとめて抱擁しているため、手で隠すような卑怯な行動は許されない。
涼「綾、ちゃんと見てる?」
綾「は…はい…見て…ます…」
…ちょっとしたプレイをしているような気分だ。

互いの性器を舐めあう体勢へと移っていく。
…ん、綾が何かを言っている?
……声ではない。
音のある呼吸、とでも言うのだろうか。
「」というやつでは表現できないような感じだ。

そして男は女の中に挿入し、動き始める。
綾「あ…あ…」
綾にとっては刺激が強いようだ。
他人の情事(正確には仕事)を最初から最後まで見るはめに陥るとは。
…そもそも俺が悪いのだけれど。
綾「おとこのひとって…みんな…こうなんですか…」
自分の言葉すら変換することすら出来ない状態になりつつも、?マークをつけ忘れた質問をしてきた。
ただ、この質問は俺と綾もこうなのだろうかという質問に聞こえる。
ちょっと答えに困った。
『そうだよ』と言ったら全身の力を振り絞ってこの場から逃げ出してしまいそうだ。
涼「うーん、この人達はこれをするのが仕事だからね。そういう風に見せるプロだから、そんな事はないんじゃないかな」
綾「そう…ですか…」

行為は終了し、ビデオも終了。
綾の頭部から湯気が出ている。
生まれて初めてアレなビデオはどうだっただろうか。
感想を聞いてみたいところだが、回答はままならないだろう、きっと。
涼「お疲れ様、綾」
綾「……」
湯気は収まり、それなり会話は出来そうだ。
涼「それじゃ、寝よっか」
綾「…あ、あの…」
綾は反応はいつもと違っていた。
いつもなら『はい』と言ってすぐに寝るのだが。
涼「うん?」
綾「あの…ですね……そ、その…」
綾は真っ赤になりつつ、太腿をもじもじとさせている。
………………………………………………………………もしや。
中学生がえっちな本を見ているのと同じ状態、いや、それ以上か。
もし、したいのであれば俺の首をつつくのだが、それをしてこない。
…綾の事だろう、ビデオを見て欲情したなんて思われたくないのだろう。
別に恥ずかしい事ではない。
それは正しい反応だ。
ただ、そんな正論は綾にとっては無意味だろう。
嫁のお願いを聞いてあげるのは旦那の役目。
綾の首の後ろ側をつんつんとつつく。
綾「あっ…」
涼「しよっか」
綾「う、うん…」
それ以上は言わないし、聞かない。
ただ、聞くのはかわいい猫の啼き声のみ。

後書き

…えー、2007年最初の作品です(笑)。
しょっぱなからなんてモノ書いてるのやら(苦笑)。
久々の作者御乱心ですが…ど、どうですかね?
今までの御乱心はどういうワケか(笑)賛同する人達がいましたが、今回はさすがにいないでしょ(笑)。
今年も作者の暴れっぷりに引きつつも、生暖かい目で見てやってください(苦笑)。
それでは次回にて。